日本刀の押形

多くの方は、美術館や博物館に足を延ばさない限り、日本刀を写真でしか見たことないのではないでしょうか。現在では撮影技術も上がり、高性能なカメラが多く出回っています。

さて、最近ある名刀の複製や写しを造る話を聞くようになりました。しかし、複製や写しを造ると簡単にいいますが、とある名刀が造られた時代にはカメラなどありません。では、何を参考にして造るのか。日本刀の世界には古来より「押形」という技術があります。

日本刀の押形は、鉛筆や墨などを用いて和紙に写す方法がありますが、現在では「石華墨」を用いたやり方が最も使われている方法です。これがもっともやりやすく、刀身・茎に大きな影響がありません。やり方や注意点をしっかり理解していれば誰でも簡単にできます。
逆に最も難しいのは墨を用いる方法です。墨の濃淡を用いて写した押形や絵図は素晴らしいものですが、その特性上、失敗したら最初からやり直すしかありませんので、熟練するには時間がかかります。

古来より有名な押形の書籍は以下の通りです。

1. 往昔抄

美濃国の齋藤利匡が永正十三年に著した刀剣書で、その父元粛が集めた茎図から抜粋した物を京物、東国物などに分類、編集した冊子。原本は、永正十四年に美濃国長良で起きた騒乱の際に行方不明となったが、その後、利匡の友人である平直滋がこれを見つけ、その礼として利匡が直滋に転写を許した。原本は、再び行方不明となり、直滋により転写された物が現在に残っている。

2. 光徳刀絵図

本阿弥光徳が描いた刀の茎と切先の絵図。記載内容の異なる五つの写本が存在する。焼身した一期一振や鷹ノ巣三条などが掲載されているなど資料的にも貴重な刀剣書。

3. 本阿弥光心押形集

本阿弥光徳の祖父・光心の採った刀の押形集。鳴狐や不動国行などの名物が記載されている。原本は存在せず、現存するものは写本。

以上です。カメラのなかった時代では、日本刀の刀身、茎を記録するために絵図や押形を採るしかありませんでした。しかし、先人達のその努力のお陰で、焼失、所在不明の刀剣などでも、私たちは名刀を見ることができるのです。

日本刀のアレコレ

日本刀愛好家による日本刀のあれやこれやを紹介! 所持のルールや手入れのやり方から処分、売買のやり方まで日本刀の疑問すべてを紹介していきます。

0コメント

  • 1000 / 1000