日本刀の五ヶ伝 ~大和伝~
日本刀の世界には『五ヶ伝』と呼ばれる、名工や刀工集団を輩出した五つの主な生産地の伝法があります。
『大和伝』『山城伝』『備前伝』『相州伝』『美濃伝』の五つを指し、江戸期以降に『五ヶ伝』と称されるようになりました。その姿や地鉄、刃文などに特色があり、日本刀を鑑賞する際の一助となります。今回は『大和伝』を簡単に紹介します。
『大和伝』
五ヶ伝の中で最も古い。
文献だと、大宝頃(701~703年)の人物と伝えられる天国、天座などの大和鍛冶が初期の刀工として出てくるが、在銘作は現存していない。古くから天国作として伝わっている現御物・小烏丸も、現在では平安前期頃の作品としてみられている。
「千手院派」「当麻派」「尻懸派」「手掻派」「保昌派」の五つは代表的な流派であり「大和五派」と呼ぶ。他に、薩摩の波平派や越中の宇多派などの社寺や荘園との関わりにより、大和から伝わったとみられる流派もある。
『大和伝』の特色は、国の中央にありながら、あまりその時代の特色を感じにくいのが特徴。その後に出てくる華美な『備前伝』、典雅な『山城伝』と比べると、質実剛健な印象を受けるのが『大和伝』。
『大和伝』に共通する特色は、輪反りが雄大に付いた姿が特徴で、次に鎬筋が高く鎬幅が身幅と比べて広い。地鉄は柾目肌や板目肌が多いが、どれも流れごころを交え、地沸は総じて厚く敷くのが特色。刃文は直刃を基調としているが、刃縁や刃中に砂流し・ほつれ・打のけ・喰違刃などの景色があり、刃中に多彩な変化がある。
また、『大和伝』の短刀の場合、大振り、尋常、小振りに関わらず全体的に重ねが厚く、冠落造の短刀も他伝に比べて多く見られる。
『大和伝』の作品は、無銘が非常に多く、そのほとんどが極め。これは、他国と比べて注文主が武士ではなく寺社が中心であったからと考えられており、作風の変化の少なさもそこに影響を受けていると思われる。
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